朝ドラ『ブラッサム』に登場する左良太(ひだり・りょうた)。
北野秀気さん演じる、大阪出身の文学好きな青年です。
そんな左良太のモデルではないかと注目されているのが、作家の今東光(こん・とうこう)。
実は今東光、主人公・葉野珠のモデルである宇野千代と親しく交流していた人物です。しかも、二人のちょっとおもしろいエピソードは、芥川龍之介の小説にもなっているんです。
この記事では、
- 左良太のモデルが今東光と考えられる理由
- 今東光と宇野千代の出会いや交流
- 芥川龍之介の小説『葱』に描かれた実話
- 左良太役・北野秀気さんの経歴
についてご紹介します。
ブラッサム左良太のモデルは今東光?

左良太のモデルとして有力なのが、小説家の今東光です。
モデルとして公式に発表されたわけではありませんが、大阪とのつながりや、絵画・文学への関心など、二人には共通点があります。
まずは、ドラマの設定と今東光の経歴を比べてみましょう。
| 比較項目 | 左良太 | 今東光 |
|---|---|---|
| 出身・生い立ち | 大阪出身 | 横浜生まれ、大阪にゆかりがある |
| 上京 | 大阪から東京へ | 1915年に上京 |
| 芸術への関心 | 絵や楽器にも関心を持つ | 画家を目指した経験がある |
| 文学 | 珠との出会いを機に創作を始める | 絵画から文学へ進む |
| 宇野千代との接点 | 珠と東京で出会う | 燕楽軒で宇野千代と知り合う |
今東光は1898年、横浜生まれ。父親が船長だったため各地を転々とし、1907年からは大阪の叔父の家に寄宿していました。
そして1915年、17歳のときに東京へ。
上京後は画塾に通い、画家を目指します。しかし、二科展では落選。その後は文学へと進み、作家として活動するようになりました。
そんな今東光が宇野千代と知り合ったのは、1917年ごろのことです。
大阪とのつながり、絵画への関心、そして東京で宇野千代と出会ったこと。
こうした共通点を見ると、左良太の人物設定に今東光の要素が取り入れられている可能性はありそうですね。
ちなみに今東光は、その後もなかなか個性的な人生を歩んでいます。
1930年には僧侶となり、1957年には『お吟さま』で直木賞を受賞。さらには参議院議員も務めました。
作家であり、僧侶であり、政治家でもあった今東光。実に多彩な人物です。
では、そんな今東光と宇野千代は、どのように知り合ったのでしょうか。
今東光と宇野千代の関係
今東光と宇野千代が出会ったのは、東京・本郷にあった西洋料理店「燕楽軒(えんらくけん)」です。
実はこのお店、当時の文学者たちが集まる場所でもありました。
燕楽軒での出会い
作家になる前の宇野千代は、さまざまな仕事を経験しています。
雑誌社の事務員に家庭教師。そして、東京・本郷三丁目にあったレストラン「燕楽軒」のウェイトレスも、そのひとつでした。
働いたのは、たった18日間。
ところが、この短いアルバイトが、宇野千代にとって大きな出会いのきっかけになったのです。
というのも、燕楽軒の向かいには中央公論社があり、編集者や文学者たちがよく店を訪れていました。
その顔ぶれが、なんとも豪華!
- 瀧田樗陰(『中央公論』の編集者)
- 芥川龍之介
- 久米正雄
- 菊池寛
- 佐藤春夫
- 今東光
文学好きの宇野千代にとっては、夢のような環境だったかもしれません。
なかでも『中央公論』の編集者・瀧田樗陰は、宇野千代の作家人生にも深く関わることになります。
ドラマでは、遠藤憲一さん演じる黒崎大三郎に重なる人物です。
⇒ ブラッサム黒崎大三郎の実在モデルは?中央公論編集長の瀧田樗陰と史実を解説
そして、燕楽軒で宇野千代が知り合った若者の一人が、今東光でした。
文学に憧れる宇野千代と、芸術に熱中する今東光。
二人はこの店で出会い、交流するようになります。
ちなみに、ドラマで珠が働く西洋レストラン「悠樂軒」も、この燕楽軒を思わせる設定です。
⇒ ブラッサム|悠樂軒の実在モデルは「燕楽軒」現在のどこ?宇野千代が働いた場所
今東光と宇野千代の散歩
燕楽軒で知り合った宇野千代と今東光。
二人は一緒に本郷の街を散歩するほど、親しくなりました。
当時は、まだ20歳前後の若者同士。
今東光は絵画や文学に熱中し、宇野千代も本を読むことや文章を書くことが大好きでした。
芸術への憧れという共通点もあり、話が弾んだのかもしれませんね。
宇野千代は、後年の聞き書き『宇野千代 ちょっと自伝』で、今東光との散歩について語っています。
このときの二人の行動が、思いがけず有名な小説の題材になるのです。
さらに今東光自身も、宇野千代について「カフェー『燕楽軒』の花形」という文章を残しました。
この作品は、2026年刊行の『宇野千代をめぐる男たち』にも収録されています。
この本には、芥川龍之介の『葱』や、久米正雄の「不思議な縁」など、宇野千代に関わる作家たちの作品も収められています。
それぞれの作家の目を通して、若き日の宇野千代を知ることができる一冊です。
そして、今東光と宇野千代の交流を語るうえで外せないのが、芥川龍之介の短編小説『葱』。
一体、どんな出来事があったのでしょうか。
芥川龍之介『葱』のモデルは宇野千代と今東光?
1920年に発表された、芥川龍之介の短編小説『葱(ねぎ)』。
主人公は、カフェーで働く若い女性。そこに芸術家志望の青年が登場します。
そして二人の物語には、宇野千代と今東光の実体験が重ねられているのです。
お君さんと田中君のモデル
『葱』の主人公は、東京・神保町のカフェーで働く「お君さん」。
文学や芸術が大好きで、ロマンチックな恋愛にも憧れています。
そんなお君さんが心を寄せているのが、「田中君」という青年です。
田中君は詩を書き、ヴァイオリンを弾き、油絵も描きます。
なかなか多才ですが、どれが本職なのかはっきりしないところも。
この二人を実在の人物に重ねると、次のようになります。
| 『葱』の登場人物 | モデルと考えられる人物 |
|---|---|
| お君さん | 宇野千代 |
| 田中君 | 今東光 |
文学好きのウェイトレスと、絵画や文学に熱中する青年。
たしかに、若い頃の宇野千代と今東光を思わせる組み合わせですね。
ただし、小説には創作も加えられています。登場人物の年齢や働いていた店の場所などは、実際とは異なります。
そして、この小説で特におもしろいのが、タイトルにもなっている「葱」をめぐる出来事です。
宇野千代が葱を買った実話
ある夜、お君さんは田中君と一緒に街を歩いていました。
好きな青年との散歩ですから、気分はすっかりロマンチック。
ところが、八百屋の前を通りかかったとき、思わぬものに目を奪われます。
それは、一束四銭で売られていた葱。
お君さんは日頃から家賃や食費のやりくりに苦労していました。
そんなお君さんにとって、安い葱は見逃せません。
そして、ついに一言。
「あれを二束下さいな。」
(引用:芥川龍之介『葱』)
なんと、デートの途中でお買い物!
これには田中君も、すっかり興ざめした様子です。
恋愛よりも、目の前のお買い得な葱。
なんとも現実的な展開ですが、思わず笑ってしまいますね。
ところが、このエピソードには実話がありました。
宇野千代自身が『宇野千代 ちょっと自伝』で、次のように振り返っています。
「わたしが今東光と、本郷の町を散歩していたときに」
(引用:『宇野千代 ちょっと自伝』)
宇野千代が今東光と散歩していたとき、八百屋の店先に二銭の葱が売られていました。
あまりの安さに、思わず買ってしまった宇野千代。
すると今東光は、すっかり興ざめしてしまったそうです。
そして、この出来事を今東光が芥川龍之介に話したことが、小説『葱』につながったといいます。
実際の出来事と小説を比べてみると、少し違いもあります。
| 比較 | 宇野千代の回想 | 小説『葱』 |
|---|---|---|
| 相手 | 今東光 | 田中君 |
| 場所 | 東京・本郷 | 東京の街中 |
| 葱の値段 | 二銭 | 一束四銭 |
| 男性の反応 | 興ざめした | 落胆した様子 |
実際にあった、ほんのささいな出来事。
それが芥川龍之介の手によって、一編の小説になったのです。
一方、宇野千代の行動からは、若い頃からの生活感覚もうかがえます。
恋愛中でも、安い葱は見逃さない!
そんな宇野千代の一面が伝わってくるエピソードですね。
ちなみに『ブラッサム』にも、芥川龍之介をモチーフにした秋山格之介(高良健吾さん)が登場します。
ドラマで珠・左良太・秋山の三人がどのように関わっていくのか、こちらも注目したいところです。
梶井基次郎や尾崎士郎との違い
宇野千代と交流のあった作家といえば、今東光だけではありません。
梶井基次郎や尾崎士郎も、宇野千代の人生に関わった重要な人物です。
では、この二人が左良太のモデルという可能性はあるのでしょうか。
まずは、ドラマの登場人物と比べてみましょう。
| 実在人物 | ドラマの対応人物 | 宇野千代との関係 |
|---|---|---|
| 今東光 | 左良太のモデル候補 | 燕楽軒で知り合う |
| 梶井基次郎 | 梶矢基一郎 | 馬込や湯ヶ島で交流 |
| 尾崎士郎 | 西尾一路 | 後に結婚する |
梶井基次郎は、名作『檸檬』で知られる小説家です。
宇野千代とは東京・馬込や静岡・湯ヶ島などで交流し、文学を通じて親交を深めました。
ただし、梶井基次郎が宇野千代と親しくなったのは、燕楽軒時代よりも後のこと。
しかも『ブラッサム』には、梶井を思わせる梶矢基一郎(佐藤緋美さん)が登場します。
一方、尾崎士郎は『人生劇場』を書いた小説家で、宇野千代の夫となった人物です。
ドラマでは、染谷将太さん演じる西尾一路に重なります。
こうして比較すると、やはり左良太と共通点が多いのは今東光。
燕楽軒での出会いや、絵画・文学への関心が、モデル説を考える大きな手がかりになりそうです。
左良太役・北野秀気さんの経歴
『ブラッサム』で左良太を演じるのは、俳優の北野秀気(きたの・ひでき)さんです。
大阪府出身で、舞台を中心に経験を積んできた実力派。
まずは、プロフィールを見てみましょう。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 名前 | 北野秀気(きたの・ひでき) |
| 生年月日 | 1995年8月19日 |
| 出身地 | 大阪府 |
| 身長 | 171cm |
| 所属事務所 | 吉本興業 |
| 学歴 | 大阪芸術大学 舞台芸術学科ミュージカルコース卒業 |
| 特技 | スポーツ・韓国語・ミュージカル |
北野秀気さんは2019年、大阪芸術大学を卒業。
2020年には関西演劇祭でアクター賞、2022年にはベストアクター賞を受賞しています。
映画『本心』『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』などにも出演し、俳優として着実に経験を重ねてきました。
さらに、朝ドラ『虎に翼』『ばけばけ』にも出演しています。
そんな北野秀気さんが今回演じるのは、大阪出身の文学青年・左良太。
文学が大好きで、珠との出会いをきっかけに小説を書き始める青年です。
大阪出身の俳優が演じる、大阪出身の文学好きな青年。
北野秀気さんの自然な関西弁や、ちょっと個性的な左良太のキャラクターにも注目したいですね。
まとめ|左良太と今東光の共通点
以上、朝ドラ『ブラッサム』の左良太のモデルと、今東光・宇野千代の関係についてご紹介しました。
今東光は、若い頃に大阪にゆかりがあり、絵画から文学へと進んだ作家です。
宇野千代とは燕楽軒で知り合い、二人の交流は芥川龍之介の短編小説『葱』にもつながりました。
こうして史実を振り返ると、左良太と今東光にはいくつもの共通点があります。
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