宇野千代と芥川龍之介には、意外な接点がありました。
若き日の宇野千代は、芥川龍之介の美しさにすっかり夢中だったとか。二人は恋愛関係だったのでしょうか。
この記事では、
- 宇野千代と芥川龍之介の意外な関係
- 二人が出会った西洋料理店「燕楽軒」
- 小説『葱』に描かれた実話
- 『ブラッサム』秋山格之介と珠の関係
- 芥川龍之介を2度演じた高良健吾さん
についてご紹介します。
宇野千代と芥川龍之介は恋愛関係だった?

数々の恋愛を経験したことで知られる宇野千代。
実は、文豪・芥川龍之介にも夢中になった時期がありました。ただし、二人は恋人同士ではありません。
宇野千代が抱いていたのは、恋というより、人気作家への強い憧れだったようです。
芥川龍之介は「雲の上の人」だった
宇野千代が芥川龍之介と知り合ったのは、1917年(大正6年)頃のこと。
芥川は『羅生門』『鼻』などで注目を集め、若くして人気作家の仲間入りを果たしていました。一方の千代は、まだ作家になる前の文学少女です。
芥川は、まさに「雲の上の人」だったのです。
後年、二人の関係を尋ねられた千代は、こんなふうに答えています。
「つき合う」というようなことじゃないのよ。
(引用:『宇野千代 ちょっと自伝』)
宇野千代は芥川の自宅を訪ねたこともありました。
当時の芥川家は、文学者たちが集まるサロンのような場所。宇野千代もその片隅に座り、胸をときめかせていたと振り返っています。
憧れの作家たちを間近で見られるなんて、文学好きの千代には夢のような時間だったのでしょう。
宇野千代は芥川の美しさに夢中だった
では、宇野千代は芥川龍之介のどこに惹かれたのでしょうか。
実は、その理由がなかなか面白いのです。
「あの男前に惚れぼれしたんでしょう。」
(引用:『宇野千代 ちょっと自伝』)
千代が夢中になったのは、なんと芥川龍之介の美貌でした。
痩せた体つきに、青白く整った顔立ち。若い千代の目には、さぞ魅力的に映ったのでしょう。
しかも後年、文学者としての芥川をそれほど尊敬していたわけではなかったとも語っています。
人気作家という華やかさと、一人の美しい男性としての魅力。その両方に惹かれていたのかもしれません。
そんな二人には、ラブレターの噂までありました。
ところが、宇野千代本人は芥川から手紙をもらった記憶がないと語っています。
自分の小説を芥川に見せた可能性には触れていますが、恋文を交わしたという話ではありません。
なんとも気になるエピソードですが、千代にとって芥川は、最後まで憧れの文豪だったようですね。
宇野千代と芥川龍之介の出会いは「燕楽軒」
そもそも、宇野千代はどうやって芥川龍之介と知り合ったのでしょうか。
二人を結びつけたのは、東京・本郷にあった西洋料理店「燕楽軒(えんらくけん)」でした。
ウェイトレスとして働いた18日間
1917年、宇野千代は従兄の藤村忠と東京で暮らし始めました。
しかし、藤村への仕送りが途絶え、生活は苦しくなるばかり。千代も事務員や家庭教師など、さまざまな仕事で家計を支えました。
その一つが、燕楽軒のウェイトレスです。
勤務期間は、なんとわずか18日間。
ところが、この18日間が千代の人生を大きく動かすことになります。
燕楽軒の向かいには、文芸雑誌『中央公論』を発行する中央公論社がありました。
常連客の一人が、編集者の瀧田樗陰(たきたちょいん)です。
瀧田は食事を終えると、50銭銀貨をチップとして置いていったそうです。
当時の50銭といえば、千代にはありがたい金額。気前のよいお客さんが来るのを、楽しみにしていたといいます。
この出会いが、のちに作家人生にもつながっていくのです。
⇒ ブラッサム悠樂軒の実在モデルは「燕楽軒」!現在の場所も解説
芥川龍之介ら文豪との出会い
燕楽軒には、瀧田樗陰に連れられ、若い文学者たちが次々とやって来ました。
その顔ぶれが、実に豪華です。
- 芥川龍之介
- 久米正雄
- 菊池寛
- 佐藤春夫
- 今東光
今では文学史に名を残す作家ばかり。
文学好きの千代にとっては、憧れの文豪たちが集まる特別な場所だったのでしょう。
ここで芥川龍之介と知り合い、今東光とも親しくなりました。
さらに、瀧田樗陰との縁はその後も続きます。
1921年、千代の小説『脂粉の顔』が懸賞小説で一等に入選。翌1922年には『墓を発く』が『中央公論』に掲載されました。
いよいよ作家としての歩みが始まったのです。
たった18日間のウェイトレス生活が、文学界への扉を開いたとは、人生はわからないものですね。
芥川龍之介の小説『葱』のモデルは宇野千代?
実は、芥川龍之介の作品には、宇野千代をモデルにしたとされる小説があります。
そのタイトルは『葱(ねぎ)』。
1920年に発表された短編小説で、宇野千代と今東光の実際の出来事がもとになったといわれています。
しかも、そのエピソードがちょっと笑えるのです。
宇野千代と今東光の葱を買ったエピソード
燕楽軒で知り合った宇野千代と今東光。
二人は親しくなり、一緒に本郷の町を散歩することもありました。
ある日のこと。
並んで歩いていた千代は、八百屋の店先であるものを見つけます。
それは、2銭で売られていた葱。
あまりの安さに、千代は思わず買ってしまいました。
ところが、これを見た今東光はすっかり興ざめ。
若い女性との散歩を楽しんでいたのに、突然始まったのは生活感たっぷりのお買い物です。
ロマンチックな雰囲気も、どこへやら。
後年、宇野千代は、今東光がこの出来事を芥川龍之介に話したらしいと振り返っています。
そして、その話が短編小説『葱』につながったというのです。
何気ない葱の買い物が、芥川龍之介の小説の題材に。
千代らしい、なんとも飾らないエピソードですね。
『葱』のお君と田中君は誰がモデル?
小説『葱』の主人公は、カフェで働く若い女性・お君さん。
文学や芸術に憧れるお君さんは、才能豊かな田中君に恋をしています。
そんな二人が、ある夜、一緒に出かけることになりました。
ところが、道端の八百屋で安い葱を見つけたお君さんは、思わず声をかけます。
「あれを二束下さいな。」
(引用:芥川龍之介『葱』)
せっかくのロマンチックなひとときに、突然の葱のお買い物。
田中君はすっかり拍子抜けしてしまいます。
まさに、宇野千代と今東光のエピソードを思わせる場面ですね。
登場人物と実在モデルの関係を整理してみましょう。
| 『葱』の登場人物 | 実在人物との関係 |
|---|---|
| お君さん | 宇野千代がモデルとされる |
| 田中君 | 今東光とのエピソードが素材とされる |
| 作者 | 芥川龍之介 |
ただし、小説と実話には少し違いもあります。
宇野千代の記憶では、葱は2銭。しかし、小説では1束4銭になっています。
また、お君さんは15〜16歳ほどの少女として描かれ、当時の千代とは年齢も異なります。
芥川は実際の出来事をヒントにしながら、物語として作り変えたのでしょう。
さらに『葱』には、夢見がちな少女の恋心と、日々の暮らしの厳しさが描かれています。
ロマンチックな恋への憧れも、安い葱を見つけた喜びも、どちらもお君さんの素顔。
そんな少女の姿を、芥川らしいユーモアと皮肉で描いた作品です。
『葱』は青空文庫でも全文公開されていますが、当時のエピソードをさらに楽しみたい方には、『宇野千代をめぐる男たち』もおすすめです。
この本には、芥川龍之介の『葱』のほか、今東光が宇野千代について書いた「カフェー『燕楽軒』の花形」も収録されています。
『ブラッサム』珠は秋山格之介に恋する?
朝ドラ『ブラッサム』でも、宇野千代と芥川龍之介の出会いを思わせる場面が描かれる予定です。
主人公・葉野珠が出会う人気作家、秋山格之介です。
秋山格之介のモデルは芥川龍之介
高良健吾さんが演じる秋山格之介は、芥川龍之介をモチーフにした人物です。
鋭い洞察力と独特の感性を持つ、文壇の人気作家として登場します。
10月28日放送予定の第23話では、珠が働く西洋レストラン「悠樂軒」に秋山の姿があります。
店の片隅で、周囲のにぎわいも気にせず洋書を読む秋山。
珠はその姿に目を奪われます。
すでに名声を手にしているのに、なお学び続ける秋山。その姿勢が、作家を夢見る珠の心を動かすのです。
史実では、芥川の美貌に夢中になった宇野千代。
では、ドラマの珠も秋山に恋をするのでしょうか。
ブラッサム第5週のあらすじでは、恋愛感情よりも、作家としての秋山への尊敬や憧れが中心となっています。
秋山は、珠の文学への情熱を刺激する存在になりそうですね。
珠・秋山格之介・左良太の関係
『ブラッサム』には、もう一人、史実とのつながりが気になる青年が登場します。
北野秀気さん演じる左良太です。
左は文学好きの青年で、悠樂軒で珠と知り合います。
公開されているあらすじでは、編集者たちの会話から文壇の情報を集める左と、働きながら小説を書き続ける珠の交流が描かれます。
ここで、ドラマと史実の関係を整理してみましょう。
| 『ブラッサム』 | 史実との関係 |
|---|---|
| 葉野珠 | 宇野千代がモデル |
| 秋山格之介 | 芥川龍之介がモチーフ |
| 左良太 | 今東光を思わせる設定がある |
| 悠樂軒 | 燕楽軒を思わせる店 |
史実では、宇野千代と今東光の何気ない出来事が、芥川龍之介の小説『葱』になりました。
となると、ドラマでも気になるのが、珠・左・秋山の3人の関係です。
もしかすると、あの葱のエピソードが登場するかもしれません。
もちろん、これは史実との共通点から考えた予想です。
さらに第5週には、珠が憧れる翻訳家・小山牛丸も登場します。
芥川龍之介をモチーフにした秋山と、個性豊かな文学者たち。珠がどんな刺激を受けるのか、楽しみですね。
⇒ ブラッサム小山牛丸の実在モデルは?翻訳家・内田魯庵ら4人を検証
秋山格之介役・高良健吾さんは2度目の芥川役

秋山格之介を演じるのは、高良健吾さん。
実は、高良さんが芥川龍之介にゆかりのある役を演じるのは、今回が初めてではありません。
2016年公開の映画『蜜のあわれ』でも、芥川龍之介を演じていたのです。
『蜜のあわれ』では、幽霊となって現れる芥川龍之介を熱演。
そして約10年後の『ブラッサム』では、芥川をモチーフにした秋山格之介を演じることになりました。
高良さん自身も、今回の役について次のように語っています。
以前、芥川龍之介役を演じた事があるので、実質二度目の芥川役だと思います。
魂の強い人間を二度も演じる事ができ、不思議な縁を感じます。(引用:シネマトゥデイ)
ちなみに朝ドラへの出演も、『べっぴんさん』以来、約10年ぶり。
宇野千代が思わず見とれたという、芥川龍之介の美しさ。
そのイメージを重ねながら高良さんの演技を見ると、また違った楽しみ方ができそうですね。
秋山格之介が珠の作家人生にどんな影響を与えるのか、今後の見どころの一つです。
まとめ|宇野千代と芥川龍之介の史実
以上、宇野千代と芥川龍之介の関係についてご紹介しました。
二人は恋人同士ではありませんでしたが、若き日の宇野千代にとって、芥川は憧れの存在でした。
さらに、今東光との何気ない買い物が、小説『葱』の題材になったという意外なつながりも。
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