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吉屋信子『花物語』のあらすじを解説!ブラッサム「花手帖」元ネタ

大正時代の女学生たちを夢中にさせた、吉屋信子の『花物語』。

少女たちの友情や憧れ、切ない別れを美しい文章で描いた作品です。

朝ドラ『ブラッサム』に登場する土橋風子の短編集『花手帖』をきっかけに、気になった方も多いのではないでしょうか。

この記事では、

  • 吉屋信子『花物語』の全体あらすじと世界観
  • 「鈴蘭」「月見草」「白萩」のあらすじ
  • 『花物語』が大正時代の女学生に愛された理由
  • 『ブラッサム』の「花手帖」との関係

についてご紹介します。

 

吉屋信子『花物語』のあらすじと世界観

花物語のあらすじ

吉屋信子の『花物語』は、大正時代に発表された少女小説です。

女学校や寄宿舎などを舞台に、少女たちの友情や憧れ、忘れられない思い出を描いた作品。花の名前を題名にした短編が集められています。

まずは、作品全体の内容から見ていきましょう。

 

全52編からなる連作短編集

『花物語』は、ひとつの長い物語ではありません。

「鈴蘭」「月見草」「白萩」「野菊」など、花の名前を題名にした52編の短編小説からなる作品です。

1916年(大正5年)7月、少女雑誌『少女画報』に第1作「鈴蘭」が掲載されました。

 

読者から好評を得たことで連載が続き、1920年(大正9年)には最初の単行本が刊行されます。

作品の基本情報をまとめると、次のとおりです。

項目 内容
作品名 花物語
作者 吉屋信子
連載開始 1916年(大正5年)
掲載誌 『少女画報』など
第1作 鈴蘭
作品数 通常52編
ジャンル 少女小説・連作短編集

なお、雑誌には全部で54編が発表されましたが、最後の2編は単行本に収録されませんでした。そのため、一般的には52編の短編集として知られています。

 

初期の7編には、もうひとつの特徴があります。

それは、洋館に集まった7人の少女が、それぞれ忘れられない思い出を語るという形式です。

初夏の夕暮れ、美しい洋館に集まった7人の少女たち。ひとり、またひとりと、胸に秘めた大切な思い出を語り始めます。

少女たちの秘密のお茶会を、そっとのぞいているような世界です。

 

少女たちの友情と切ない別れ

『花物語』の中心となるのは、少女たちの繊細な心の動きです。

作品には、次のようなテーマが繰り返し登場します。

  • 美しい少女や年上の女性への憧れ
  • 親しい友人との忘れられない思い出
  • 卒業や別れによる悲しみ
  • 母親や家族への深い愛情
  • 一度きりの出会いから生まれる特別な感情

物語の舞台もさまざまです。女学校や寄宿舎だけでなく、異国の少女や美しい尼僧なども登場します。

登場人物たちは、必ずしも大きな事件を経験するわけではありません。

ふとした出会いや誰かの優しい言葉が、いつまでも忘れられない思い出になるのです。

そして、その記憶と結びついているのが花々。

鈴蘭の花を見れば、遠い異国へ去った少女を思い出す。月見草が咲けば、別れた友人の面影がよみがえる。

花が少女たちの記憶を呼び起こすという、美しい仕掛けが『花物語』の魅力になっています。

 

『花物語』の代表的な3編のあらすじ

それでは、『花物語』には具体的にどんなお話が収められているのでしょうか。

今回は、最初に発表された「鈴蘭」「月見草」「白萩」の3編をご紹介します。

作品 物語の中心
鈴蘭 亡き母を慕う少女とピアノ
月見草 踊りの稽古で出会った少女との別れ
白萩 道に迷った少女と若い尼僧の出会い

 

「鈴蘭」のあらすじ|母を慕う少女とピアノ

「鈴蘭」は、1916年7月に発表された『花物語』の記念すべき第1作です。

物語を語るのは、牧師の娘・笹鳥ふさ子。

ふさ子が幼い頃、音楽教師をしていた母親が経験した不思議な出来事を、友人たちに聞かせます。

 

ある夜、誰もいないはずの学校の講堂から、美しいピアノの音が聞こえてきました。

不思議に思ったふさ子の母親が確かめると、そこには一人のイタリア人少女が。

少女の名前はオルテノ。夜になると人目を避けてピアノを弾いていたのです。

 

実は、そのピアノは少女の亡くなった母親が使っていたものでした。

亡き母の面影を求めて、ひそかにピアノを弾きに来ていたのでした。

事情を知ったふさ子の母親は、少女の秘密を誰にも話しません。

翌朝、ピアノの上には鈴蘭の花束と銀の鍵、そして感謝の手紙が残されていました。

その日を境に、不思議なピアノの音が響くことはなくなります。

亡き母を慕う少女の切ない気持ちと、それをそっと受け止めた女性の優しさ。

鈴蘭の花に託された感謝と別れが、静かな余韻を残す物語です。

 

「月見草」のあらすじ|忘れられない友との別れ

「月見草」は、1916年8月に発表された第2作です。

物語を語るのは静枝という少女。踊りの稽古を通して親しくなった、おゆうさんとの思い出を振り返ります。

二人は一緒に踊りを習い、楽しい時間を過ごしていました。

しかし、おゆうさんの心には、亡くなった母親への深い思いもありました。

母親から聞いた長崎での出来事は、おゆうさんにとって忘れられない記憶だったのです。

 

静枝は、そんなおゆうさんの話に耳を傾けます。

やがて、二人にも別れの日が訪れました。

そのとき、おゆうさんが静枝に残してくれたのは、一本のかんざし。

静枝は、別れたあともそのかんざしを大切にします。

そして、月見草が咲く夕暮れになると、おゆうさんの面影を思い出して涙を流すのでした。

 

大切な友人との思い出を、花に重ねる少女の切ない気持ち。

二人が一緒に過ごした時間は、もう戻ってきません。

けれども、かんざしを見るたび、月見草が咲くたびに、楽しかった日々がよみがえります。

「月見草」は、少女時代の友情と母への思慕が重なり合う、切ない一編です。

 

「白萩」のあらすじ|少女と尼僧の出会い

「白萩」は、1916年9月に発表された第3作です。

物語の中心となるのは、山奥で道に迷った少女と、一人の若い尼僧との出会い。

 

ある日、少女は山道で迷ってしまいます。

そんなとき、思いがけず一人の尼僧に出会いました。

尼僧は主人公と同じ年頃の少女で、もとは高貴な身分の人物でした。

 

主人公の言葉に心を動かされた尼僧は、自分の庵へ温かく迎え入れます。

少女は、尼僧の美しく清らかな姿に強く心を奪われました。

そして、別れを惜しむように、涙ながらにこう願います。

「お姿を描かせてください」

(引用:吉屋信子『花物語』「白萩」

少女にとって、尼僧との出会いは、それほど心に残る出来事だったのです。

やがて別れのときが訪れますが、主人公は尼僧の面影を忘れられません。

その姿を思い浮かべながら、白萩の絵を描き続けるのでした。

白萩の花と重なり合う、美しい尼僧の思い出。

一度きりの出会いであっても、心に残った人の姿は消えない。

「白萩」は、少女の憧れと忘れられない出会いを、静かに描いた物語です。

 

吉屋信子『花物語』はなぜ人気だった?

『花物語』は、大正から昭和にかけて多くの女学生に読まれ、「女学生のバイブル」とも呼ばれる作品になりました。

では、当時の少女たちは、なぜこれほど夢中になったのでしょうか。

その魅力は、美しい文章と、少女自身の気持ちを大切にした物語にあります。

 

美しい言葉で描かれた大正ロマン

『花物語』の大きな特徴は、花や風景を織り込んだロマンチックな文章。

月明かり、花の香り、ピアノの音色。

吉屋信子は、さまざまな風景を使いながら、少女たちの繊細な心を描きました。

 

こうした装飾的で情緒豊かな文章は、当時の少女雑誌で好まれた「美文」と呼ばれる表現につながっています。

吉屋信子は、美しい言葉を使いながら、少女たちが夢中になれる独自の世界を作り上げたのです。

さらに、少女たちの美しさを描く挿絵も、作品の魅力を高めました。

 

後年には、中原淳一の挿絵による『花物語』も刊行されています。

美しい文章と挿絵が一体となった、夢のような少女の世界。

それが『花物語』の大きな魅力だったのでしょう。

 

女学生たちの共感を集めた理由

『花物語』を語るうえで欠かせないのが、「エス(S)」と呼ばれる少女同士の親密な関係です。

「エス」は英語の「Sister(姉妹)」に由来する言葉。

明治末から昭和初期にかけて、女学生たちの間では、友情とも恋愛ともつかない特別な関係が育まれていました。

上級生への憧れや、親しい友人への強い思い。相手を大切にする気持ちは、ときに恋心のような熱を帯びます。

『花物語』には、こうした少女同士の親密なつながりが、繰り返し描かれています。

 

しかし、すべてがエスを中心とした物語ではありません。

「鈴蘭」のように亡き母への思いを描いた作品もあれば、「白萩」のように一度きりの出会いに強く心を動かされる作品もあります。

共通しているのは、少女たち自身の感情が、物語の中心にあることです。

 

当時の女性には、結婚して家庭を守ることが理想とされる風潮がありました。

そんな時代に、少女たちの友情や憧れ、悲しみを美しい物語として描いた『花物語』。

読者たちは、登場人物の姿に自分自身の気持ちを重ねたのかもしれませんね。

 

ブラッサム「花手帖」と吉屋信子『花物語』

朝ドラ『ブラッサム』にも、吉屋信子の『花物語』を思わせる作品が登場します。

それが、土橋風子の少女小説『花手帖』です。

第4週では、主人公の葉野珠が本郷の書店「ぶくぶく堂」で、雑誌『少女春秋』に掲載された『花手帖』と出会います。

さらに第6週では、書店の店主・本田が、土橋風子の短編集『花手帖』を珠に結婚祝いとして贈りました。

土橋風子の実在モデルは、少女小説で人気を集めた吉屋信子。

少女たちの心を描いた人気作家という設定や、花にちなんだ作品名など、『花手帖』と『花物語』には共通点があります。

 

また、第6週では、珠が悲しい経験をします。

『花物語』にも、大切な人との別れや、忘れられない思い出が繰り返し描かれています。

実際の作品内容がそのまま珠の体験と重なるわけではありませんが、人を思う気持ちや悲しみに寄り添う世界観には、通じるものを感じますね。

『花物語』を知ることで、ドラマに登場する『花手帖』も、より興味深く見えてきます。

⇒ブラッサム『花手帖』のモデルは実在する?吉屋信子『花物語』と伏線を考察

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