朝ドラ『ブラッサム』第20話で、葉野珠が書店「ぶくぶく堂」で出会った小説『花手帖』。
第6週では短編集として再び登場し、珠への結婚祝いとして贈られます。
この『花手帖』には、実在するモデルがあるのでしょうか?
実は、吉屋信子の代表作『花物語』といくつもの共通点があります。
この記事では、
- 『花手帖』の実在モデルと『花物語』のあらすじ
- ドラマと史実の作品の共通点
- ブラッサム第20話・第6週の登場シーンと伏線考察
についてご紹介します。
ブラッサム『花手帖』のモデルは吉屋信子『花物語』?

結論からいうと、土橋風子の『花手帖』は、吉屋信子の代表作『花物語』がモデルになっている可能性が高い作品です。
土橋風子の実在モデルは、大正から昭和にかけて活躍した女性作家・吉屋信子。
作品名だけでなく、少女向け雑誌への掲載や作風にも共通点が見られます。
まずは、史実の『花物語』がどのような作品だったのか見ていきましょう。
吉屋信子の『花物語』とは?
吉屋信子は1896年、新潟県に生まれました。大正から昭和にかけて活躍し、少女小説で人気を集めた作家です。
代表作『花物語』が誕生したのは、1916年(大正5年)。吉屋信子が20歳のときでした。
雑誌『少女画報』に投稿した第1話「鈴蘭」が採用され、7月号に掲載されます。
すると、作品は女学生たちの間で評判になりました。その後も「月見草」「白萩」「野菊」など、花の名前を冠した物語を次々と発表。
1925年ごろまでに、全52編が書き継がれる人気シリーズとなりました。
1920年(大正9年)には、洛陽堂から単行本第1集が刊行されています。
まだ20歳だった吉屋信子が、少女たちの心をつかむ人気作家へ。そのきっかけとなった作品が『花物語』だったのです。
『花物語』のあらすじ
『花物語』は、一人の主人公を追いかける長編ではありません。
「鈴蘭」「月見草」「白萩」など、花の名前を題名にした物語が集まった連作短編集です。
舞台となるのは、女学校や寄宿舎など、少女たちの暮らす世界。
友人への憧れ、淡い思慕、別れの寂しさ。少女たちが胸に秘めた繊細な感情を、美しい文章で描いています。
しかし、かわいらしい花の題名とは裏腹に、悲しみや孤独を抱えた少女たちの姿も登場します。
『花物語』の特徴は、少女たち自身の気持ちや生き方を物語の中心に据えたことです。
男性を支える役割だけにとどまらず、少女たちの内面を丁寧に描いた作品は、当時の女学生たちの共感を呼びました。
⇒吉屋信子『花物語』のあらすじを解説!ブラッサム「花手帖」元ネタ
『花手帖』と『花物語』を比較
ドラマと史実の作品を比較すると、次のような共通点があります。
| 項目 | 『花手帖』 | 『花物語』 |
|---|---|---|
| 作者 | 土橋風子 | 吉屋信子 |
| 掲載誌 | 『少女春秋』 | 『少女画報』 |
| ジャンル | 少女小説 | 少女小説 |
| 内容 | 少女たちのやりきれなさを描く | 友情や憧れ、悲しみを描く |
| 作者の年齢 | 20歳そこそこと紹介 | 20歳で第1話を発表 |
| 書籍化 | 第6週に短編集が登場 | 1920年に単行本第1集を刊行 |
特に似ているのが、少女たちの内面を描く作風です。
第20話で本田が紹介した『花手帖』は、少女のはかなさだけでなく、心の奥にある「やりきれなさ」まで描く作品でした。
これは、実際の『花物語』の特徴とも重なります。
また、雑誌に掲載された作品が、のちに一冊の本になるという流れも共通しています。
ただし、書籍化の時期には違いがあります。
ドラマでは1918年の物語に短編集『花手帖』が登場しますが、史実の『花物語』第1集が刊行されたのは1920年です。
こうした違いもあり、作品の特徴を参考にしながら、ドラマ独自の設定が加えられていると考えられます。
なお、土橋風子の実在モデル・吉屋信子については、こちらの記事で詳しく紹介しています。
⇒ ブラッサム土橋風子の実在モデルは吉屋信子!宇野千代との関係も解説
『花手帖』は第20話と第6週に登場
『花手帖』が初めて登場したのは、2026年10月23日放送の第20話でした。
そして第6週、珠の人生が大きく動く場面で再び登場します。
二つのシーンを振り返ってみましょう。
ブラッサム第20話|ぶくぶく堂での出会い
岩国を離れ、保を頼って東京へやってきた珠。
買い物の途中で立ち寄ったのが、書店「ぶくぶく堂」でした。
店主の本田は、立ち読みをしようとする珠を大歓迎。雑誌『少女春秋』を開き、土橋風子の『花手帖』を紹介します。
作者は、まだ20歳そこそこの若い女性作家。
本田は『花手帖』の魅力を、独特の言葉で語りました。
「腹の底に、ハフンって来る」
一見すると、かわいらしい少女向けの小説。しかし読んでみると、心の奥まで揺さぶられる。
本田の話に興味をひかれた珠は、『少女春秋』を購入します。すっかり夢中になり、買い物の荷物を店に忘れてしまうほどでした。
望まない結婚や教師としての挫折を経験し、東京へやってきた珠。
『花手帖』との出会いは、珠が再び文学に心を向けるきっかけのひとつとなります。
この経験は、のちに珠が小説を書く情熱を取り戻す流れにもつながっていきました。
⇒ブラッサム|ぶくぶく堂の実在モデルは?本郷の書店と現在の姿を調査
ブラッサム第6週|珠への結婚祝い
第6週では、珠と保の間に新しい命が宿ります。
二人は結婚を決意し、保の親戚・木村正吾から援助を受けることになりました。
正吾は札幌の銀行に勤めており、保が大学を卒業したら札幌で働くように提案します。
こうして結婚と北海道行きを決めた珠は、お世話になった人々へ挨拶に回りました。
その途中で訪れたのが、書店「ぶくぶく堂」です。
本田は結婚祝いとして、土橋風子の短編集『花手帖』を手渡しました。
第20話では雑誌の掲載作として出会い、第6週では一冊の本として受け取る。
同じ『花手帖』が、珠の人生の節目に再び登場したことになります。
このころ珠は、母になることを第一に考えていました。
第5週では小説を書き始め、『首都公論』の黒崎に原稿を持ち込んでいた珠。しかし第6週では、まずお腹の子どもを大切にしたいと伝えています。
小説を書くことから、母になることへ。
そんな転機を迎えた珠に贈られたのが、かつて文学への情熱を呼び起こしてくれた『花手帖』だったのです。
『花手帖』は珠の未来への伏線?
『花手帖』は、単に実在モデルのある小説として登場しただけなのでしょうか。
第20話と第6週の描写を振り返ると、珠の今後につながる意味も感じられます。
ここからは、ドラマの描写をもとに考察してみましょう。
珠と文学をつなぐ一冊
最初の出会いは、珠が東京で新しい暮らしを始めたとき。
二度目は、保との結婚によって人生が大きく変わろうとしていたときでした。
どちらも、珠が大きな転機を迎えた場面です。
特に印象的なのは、小説を書くことから少し離れようとしていた珠に、再び『花手帖』が贈られたこと。
第5週では、作家を目指して原稿を書き、出版社にも持ち込んでいました。しかし第6週では、母になることを優先しようと考えています。
そんな珠の手元に残った一冊の本。
『花手帖』は、珠と文学をつなぎ続ける象徴なのかもしれません。
同世代の女性が小説を書き、多くの読者の心を動かしている。
その事実を教えてくれた『花手帖』は、珠にとって特別な一冊になったのではないでしょうか。
悲しい別れと札幌への旅立ち
第6週では、珠と保に思いがけない悲しみが訪れます。
妊娠7か月を過ぎたころ、珠は突然激しい腹痛に襲われました。
そして1919年(大正8年)1月、早産で生まれた女の子が亡くなってしまいます。
深い悲しみに包まれる二人。
珠は、自分のせいで赤ちゃんを死なせてしまったのではないかと、自分を責めます。
そんな珠を保は抱きしめ、二人で涙を流しました。
翌朝、保は大学卒業を待たず、札幌へ向かうことを決意。何も知らない土地で、一からやり直そうと珠に伝えます。
こうして1919年3月、二人は北海道・札幌へ旅立ちました。
札幌では、珠が裁縫の腕を生かして仕立物の仕事を始めます。
丁寧な仕事が評判になり、珠の周りには女性たちが集まるようになりました。
新しい土地で、少しずつ生きがいを見つけていく珠。
ここで思い出したいのが、本田が『花手帖』を紹介したときの「やりきれなさ」という言葉です。
少女たちの喜びだけでなく、悲しみや孤独にも目を向けた作品。
珠自身もまた、望まない結婚や教師としての挫折、そして子どもとの別れなど、簡単には言葉にできない経験を重ねてきました。
そうした経験も、いつか珠が小説を書くうえで大切な題材になるのかもしれません。
もちろん、『花手帖』が悲しい出来事を直接予告していたわけではありません。
ただ、珠の人生の転機に文学とのつながりが描かれているところは印象的です。
なお、珠のモデル・宇野千代も、史実では妊娠と流産を経験したと伝えられています。
⇒ 宇野千代の妊娠と流産|子どもはいた?「我が子同然」の4人との関係
また、土橋風子のモデル・吉屋信子と、珠のモデル・宇野千代は、史実でも親しく交流した女性作家でした。
1924年には東京・大森周辺で親しくなり、長く交流を続けています。
こうした史実を考えると、珠と土橋風子の関係が今後どのように描かれるのかも気になりますね。
まとめ|『花手帖』のモデルと伏線
以上、朝ドラ『ブラッサム』の『花手帖』と、実在モデルと考えられる吉屋信子『花物語』についてご紹介しました。
『花手帖』には、作者の設定や少女たちの内面を描く作風など、『花物語』と重なる点がいくつもあります。
また、第20話と第6週に登場した『花手帖』は、珠と文学とのつながりを感じさせる一冊でもありました。
悲しい別れを経験し、札幌で新しい暮らしを始めた珠。
こちらもCHECK
参考:
大阪府立図書館「日本の子どもの本~珠玉の30選~『花物語』」
ネットミュージアム兵庫文学館「吉屋信子」
国立国会図書館サーチ『花物語 第1集』
神奈川近代文学館「ふたりの千代」